12月30日、朝。家族になった
福永 あずさ(フリー編集者)
「ばあちゃんの時からもうずっと、これだけは欠かせん行事とたいね」
たぷたぷとした熱々の餅を小気味いいリズムで丸めながら。
褪せた紫色の割烹着に、おそらく息子のお下がりであろうニット帽をかぶった義母が言ったとき、わたしは、この家の家族になったんだなと思った。
「12月30日は家族で集まって餅つきをするんだ。だからあずさにもいつか来てほしい」
付き合っているときから、この年末の餅つきは、夫の家の恒例行事であると聞いていた。
義母は暗いうちから餅米を蒸し、熱湯を入れて臼と杵を温め、餅つきの準備をひとりで行う。実際に食べて米の蒸しあがりを確認し、食べごろになっていれば、ほかほかの熱いうちに臼に戻す。体重をかけて、杵で丁寧に潰していく。全体を丁寧に潰すことができたら、やっと「つく」作業の始まりだ。
年末特有の、世界のすべてをすっきりと洗い流したようなツン、とした空気にペン、ペン、ペンと餅をつく音がひたすらにこだまする。臼は木ではなく石臼で、大人たちがやっとこさ運び出すほどの重さと、その迫力に驚いたものだ。
合いの手は、外から中へ。「つく時は力を入れすぎんごつして、振り上げた杵の重さを利用してふり落とせばよか」といいながら、でっかい小龍包の皮のようになった餅を折り込むようにし、義母がお手本を見せてくれた。義父が叩く。義母が合いの手を入れる。ほどなくして夫に変わる。
待ちわびていたわたしに、義母がポジションを変わってくれた。
「すごい! いまわたし餅つきしてる!」
夫家族にとっては毎年の行事。これをしないと年が越せない当たり前のイベントだったが、冬の空にのぼっていくふつふつとした湯気も、蒸された餅米のにおいも、いくつかの家族が集まりにぎにぎしくしている様子も、すべてを新鮮にうけとめるわたしの存在が、夫家族にとってはまた新鮮にうつっているようだった。
実は義母と義父は約20歳の年の差があり(当時はとてもめずらしかったと思う)、結婚した当初、義父はすでに80歳を超えていた。
杵をもてるのだろうかという嫁の心配をよそに、義父は細い腕で、大きな杵を振り上げ、落とす。
そしてまた振り上げて、落とす。
ふだんは物静かでおだやかなのに、大きな声で義母に合いの手のリズムを指示したり、息子(夫)よりてきぱきと動いたり。餅つき奉行さもありなん、といった感じで、石臼を前にすると人が変わったようになることも、それを支える義母の姿も、なんだか幸せな光景としてずっと心にのこっている。
ついたあとの餅は、アチチアチチといいながら、粉まみれになってみんなで丸める。
同時に炊きたての餡をくるんだあんこ餅もつくる。
そんな作業のお供になってくれるのが、義母のつくってくれるのっぺ汁だった。
おかあさんの味、というのはなぜこんなにも愛があふれているんだろう。
台所に立ったまま餅と汁を交互に食べながら、ぼんやりとその年のことを考えたり、考えなかったり。結婚してからしばらくは、この年の瀬の餅つきは恒例行事となっていた。
数年前から義父の体調が芳しくなく、入退院を繰り返すようになった。
もちろん、餅つきもできない。
餅つきは想像以上に重労働だ。そして、“ふたり”がそろわないとできない。
同じように義母も年をとり、準備の手間・片付けの手間などを考えると、なかなか復活できないのだという。
つきたての餅のおいしさはもちろん格別の味だが、わたしがこんなに心を動かされたのは、夫の家族が何年もこの行事を大切に守ってきたのは、家族の大切なやくそくだったからだと思う。
今年も無事に1年がおわる。
またあたらしい年がはじまる。ありがとう、またよろしくね、そんな気持ち。
実母を亡くした直後だった。夫が育った家の台所に立ち、つきたての餅をみんなで頬ばった時、生きているのが嬉しいと思った。あの時、家族になれたのだと思った。
いま我が家のキッチンを横目でみると、買ったばかりの餅の箱が置かれている。
大きな石臼と杵は、義実家の倉庫に眠っている。
夫とふたりで復活させるか? いやいや…うーん。まだ無理かなあ。
義母と義父が積み重ねた餅つきの儀は、まだ引き継げないでいる。
Photo:内村友造
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中山大吉商店のお餅は楽天お餅ランキング1位!
熊本県産のおいしいお餅です!
お餅は、作り手の心を映す鏡?! 大吉さんの人柄を探ってみた。
お餅は、作り手の心を映す鏡?!
大吉さんの人柄を探ってみた。
こんにちは、こんばんは。
年々、化学繊維の肌着が肌に合わなくなってきているライター中城です。
2児の子育てと家事育自仕事に奔走する毎日ですが、
この時期、お餅は最強の時短飯、かつパワーフードです。
お砂糖と醤油があれば、忙しい朝もなんとかなるもので
本当に重宝しますよね。
そんなわけで、割と季節を問わずお餅を買う私ですが、
先日、友人から「『中山大吉商店』の餅最高よ」
という朗報を得たので、ゲットしました「中山大吉商店」の餅!
控えめに言って最高にうまいっっ!!
シンプルがゆえに、素材の味がダイレクトに出るお餅。
熊本産のもち米を使っているから?
いやいやそれだけではない、おいしさの秘訣があるはず。
そもそも“大吉”って名前だけでも縁起良さげだし、
作る人の人柄も、お餅の味に影響している気がする!
そう、きっと餅は作り手の心を映す鏡!
(鏡餅だけにね!)
そんなわけで今回は、人気のお餅の作り手“大吉さん”の人柄を探るべく、
近しい人たちに聞いてみました!!
「大吉さんってどんな人」?
証言1.福笑いみたいな人
「福笑いみたいな人ですかね」
「え、福笑いってあの福笑いですか?」
一瞬、聞く相手を間違ったかなって思いつつ「そうなんですね~」って答える私の
脳内BGMは、高橋ゆうさんの「福笑い」に決定(♪きっとこの世界の共通言語は~)。
「これまで一回も怒られたことが無いですし、とにかく優しい。たとえばすごく手間のかかることも、嫌な顔ひとつせずやってくれるところ、すごいなって思ってます」
「なるほど。とにかく“いい感じ”な人なんですね」
大吉さん=福笑い=高橋ゆう=いい感じ
―――大吉さんのイメージ、整いました。
証言2. 家業を継ぐ前は、SE(システムエンジニア)だったらしい。
「元々は関東でシステムエンジニアをされてたんですよ」
「え!! 案外ハイテクな方なんですね」
「3代目が自分の代で店をたたもうとしていた2013年頃に、ネット販売を始められて、3年後の2016年に3代目が亡くなったのをきっかけに継ぐことを決めたみたいです」
「じゃあネット販売のきっかけをつくられたのは、ご本人だったんですね」
実はインターネット販売をはじめてからというもの、
「中山大吉商店」のお餅のリピーターは年々増え続け、
年末年始は、本気で飛ぶように売れるそうです。
そして、そのネット販売の地盤を作ったのは、
関東でSEとして働いていた20代の大吉さんご本人だったなんて(!)。
遠く離れた熊本で味噌屋を営む(「中山大吉商店」は一年間の内350日は味噌屋です)ご両親のために、何か手助けできることは…と大吉さんが行った親孝行が今や自身の稼業となり、おいしいお餅を全国の方にお届ける礎となっている…。素晴らしいじゃありませんか。
大吉さん=福笑い=高橋ゆう=いい感じ=親孝行=ネットで爆売れ=縁起がいい
―――芸は身を佑とは、まさにこのこと!!
証言3. 家内制手工業
「一度、見に行ったことがあるんだけど、思ってる以上に家内制手工業だから。この古い機械が壊れたら、繁忙期どうするんだろっていうくらい! リスクヘッジという言葉を知りませんか?! って驚いたのよ」
「以前、陶芸家さんのところで聞いたことがあるよ。45年前の機械が今も最新であり続けるんだと。機械が新しければ、効率はいいだろうけど、味はどうでしょう? ってやつだよね」
「は?」
おいしいパン屋は、移転すると味が落ちるというのが世の常らしい。
それは、見えないけれどその空間に漂う酵母そのものが、
パンの旨味になっているのだ、というのだ。
きっと日々良質な味噌から放たれる酵母たちが
ここぞとばかりに大吉さんの餅をおいしくしてくれているのだろう。
大吉さん=福笑い=高橋ゆう=いい感じ=親孝行=ネットで爆売れ=縁起がいい=見えないものの世界=酵母=うまいお餅
―――完全に点と点が繋がった…!!
そして
「そんな風だから大吉さんのお餅は、おいしいんだねぇ」
と、しみじみ語った私に、友人は放った衝撃的なひと言。
「てか、中山さんの名前“大吉”じゃないよ。憲征(けんせい)だよ? 」
しかし、そんな家内制手工業だった大吉さんの店に、
このたび新しくマシンが導入されたとのこと!!!
そのおかげで今年は、なんと丸餅の“大吉もち”、切り餅の“幸吉もち”に加えて、“スライス餅”が登場っっ!!!!
「いくら年末年始にしか発売しないからって、そんなにいっぱい食べられないよ」
って方は、すぐさま冷凍庫にぶち込んで!
最後に、岡山の雪深い地域に実家のある友人から聞いた
最高の餅の調理テクをお伝えしよう。
① 凍ったお餅を用意する
② 丼など、深めの器にお餅を入れて水に浸す
③ 電子レンジ800wで約3分温めれば完成!
※様子を見ながら時間を調整しましょう
これまでは、お餅はオーブントースターで焼いて焦がすか
レンジでチンしすぎて、ぐでぐでのお餅にしてしまいがちだった
私のお餅ライフは、この手法によって格段に豊かになりました!
ちなみにその友人の実家では、
屋外のドラム缶にお餅を入れて
保管していたらしいです(超ワイルド)。
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